水頭症

水頭症とは?

脳・脊髄の周囲や脳の中(脳室 図A)は、脳脊髄液(髄液)で満たされています。髄液は脳室の中にある脈絡叢(図B)で産生され、脳・脊髄の周りを回った後にくも膜顆粒という組織で吸収されます。

水頭症は、何らかの原因によって髄液の循環が悪くなったり、吸収されなくなったりすることで、髄液が過剰に溜まってしまう病気です。

水頭症の原因

水頭症は、原因が明らかな続発性(二次性)水頭症と、原因がはっきりと分からない特発性正常圧水頭症に大きく分かれます。

続発性水頭症は、脳出血・頭部外傷・脳腫瘍・髄膜炎などの病気が原因で、脳室の通路が詰まる場合(非交通性水頭症)と髄液の吸収が悪くなる場合(交通性水頭症)があります。

水頭症の原因

出血などで脳室が急に詰まると急激に頭蓋内圧が上昇し、意識障害などの症状を引き起こします。血液や髄液を一時的に対外に排出させるため、緊急の脳室ドレナージ術が必要になります。髄液の循環路の中でも、中脳水道は非常に細いため、出血や腫瘍などによって閉塞しやすい場所になります(図C)。髄液がゆっくりと溜まる場合には、頭蓋内圧は正常で症状も比較的ゆっくりと出てきます。

原因となる病気の治療によって水頭症が治癒することもありますが、髄液の吸収障害など原因が取り除けない場合には、水頭症に対するシャント手術が必要となる場合もあります。

特発性正常圧水頭症について

高齢者に多くみられ、「治る認知症」として知られています。「歩行障害」、「認知症」、「尿失禁」の3つが代表的な症状(3主徴)です。

① 歩行は、足が開き気味になり、歩幅は小さく、膝が上がらずにすり足となります。方向転換時に特に不安定で転びやすくなります。3主徴のうち、歩行障害が最初に出やすく、治療で最も改善が得られやすい症状とされています。

② 認知症状は、集中力や意欲・自発性が低下し、趣味や日課をしなくなったり、計画を立てることができなくなり、一日中ぼーっと過ごすことが多くなります。物忘れもだんだんとひどくなっていきます。

③ 尿意切迫感(尿意を感じると長く我慢できない)、頻尿(トイレが非常に近くなる、特に夜間)が見られます。また、歩行障害のためトイレに間に合わないことも原因となります。

症状で特発性正常圧水頭症が疑わしい場合、MRI検査を行います。いくつかの特徴的な画像所見に合致するかどうかを確認します。さらに髄液排除試験(タップテスト)をおこないます。髄液を30-50mlほど排出し、症状の改善があればシャント手術の効果が期待できます。症状の評価は、Timed Up & Go Test(TUG)やMini Mental State Examination(MMSE)をおこなって歩行や認知症状が一時的に改善するかどうかを確認します。

シャント手術について

2次性水頭症、特発性正常圧水頭症ともに、治療効果が見込める場合にシャント手術を検討します。髄液シャント手術により過剰に頭の中にたまった脳脊髄液を頭から他の部分(具体的にはお腹や心臓)へ流すことで症状の改善が期待できます。

髄液シャント手術には、脳室-腹腔(VP)シャント術、腰椎-腹腔(LP)シャント術、脳室-心房(VA)シャント術の3種類の手術があり、患者さんの状態に合わせてそのいずれかが選択されます。心臓へ髄液を流すVAシャント手術は行われる頻度は全国的にも低く、どうしても必要な患者さんに適応が限られます。お腹へ髄液を流すVPシャント手術やLPシャント手術が行われることがほとんどです。

合併症の頻度が低いことや脳にチューブを刺さなくて済むといった観点から、LPシャント手術の方が患者さんの負担はより少なくてすみます。ただし、非交通性水頭症であったり、高齢の患者さんで腰椎の圧迫骨折があって変形が強かったり、腰の手術を受けたことがある場合など、LPシャント手術をおこなえないことがあります。

当院では、LPシャント手術を第一に考え、LPシャント手術が適切でない場合にVPシャント手術を選択しています。