神経血管圧迫症候群

神経血管圧迫症候群とは

神経血管圧迫症候群は、血管が脳神経を圧迫することで症状が出る病気の集まりです。

脳神経のうち、顔面神経(顔を動かす神経)を圧迫すると片側顔面痙攣、三叉神経(顔の感覚を司る)を圧迫すると三叉神経痛、舌咽神経(舌の奥・咽頭・中耳の感覚などを司る)を圧迫すると舌咽神経痛が起こります。

片側顔面痙攣

最初は片方の目の周囲(眼輪筋)がピクピクとけいれんを起こすことから始まります。そのうち同側の口元(口輪筋)も同時にピクピクとけいれんが起き始めます。そのため最初は眼科を受診される方が多いのですが、実は頭の中で顔面神経に血管が当たって起こっている病気なのです。

最初のうちは時々しか起こらないのですが、数か月~数年かけてけいれんがひどくなっていきます。ひどくなると、けいれんで片目がギューッと閉じてしまって運転に支障がでることがあります。精神的な緊張でけいれんがひどくなることも多く、発表会や接客業などで人前にでることが難しくなることもあります。

症状の特徴ですが、基本的には片側にだけけいれんが出ます。昨日は右側、今日は左側ということはありません。目と口のけいれんが同期します。けいれんと一緒に同側の耳の中でゴソゴソ、ガサガサと音がすることがあります。決して精神的なものではなく、年齢とともに血管が蛇行して顔面神経に接触するようになるのが原因です。

特効薬と言える内服薬は残念ながらありません。降圧剤などがわずかに症状を和らげることがある程度です。治療方法は大きく二つになります。

一つ目は、ボトックスという注射です。筋肉を麻痺させることでけいれんを止めます。効果は約3か月しか持続しませんので、繰り返し注射を打つ必要があります。繰り返しの注射が苦にならない方、症状が軽くて肝心な時だけ症状を止めたい場合や、高齢の患者さんなどに特にお勧めできる治療です。

二つ目は、手術です。顔面神経を圧迫している血管を移動させます。根本的な原因を取り除く治療法であり、最終的には90%以上の患者さんが手術後に顔面のピクつきから解放されます。効果の高い治療ですが、全身状態の悪い方など手術そのものの危険が高いと予想される場合にはお勧めできません。

三叉神経痛、舌咽神経痛

三叉神経は顔の感覚を司る神経です。
三叉神経痛では、会話、食事、歯磨き、洗顔などでビリっと発作性に激痛が走ります。数秒~数十秒、長くて数分程度と短い痛みが反復します。痛みは必ず片側で、痛みが左右交互に出ることはありません。患者さんから、「虫歯と思って歯医者に行ったけど、虫歯はなかった。何科を受診したらいいか分からなくて困った」という話をよく伺います。

舌咽神経痛は三叉神経痛に似ていますが、舌やのどの奥、耳など、痛みの部位が若干異なります。三叉神経・舌咽神経痛には、脳腫瘍などが原因の場合と、脳血管の神経への圧迫が原因の場合があります。まずMRI検査で原因が何であるかを調べます。脳腫瘍などが無ければ、多くの場合原因となる血管を推定することが可能です。

治療方法として、第一に薬物療法を行います。カルバマゼピンという薬剤は三叉神経・舌咽神経痛に対して非常に有効です。副作用として、ふらつきや眠気などが出ることがあるため、少量から開始します。痛みの状態に応じて、少しずつ増量していきます。十分な効果が得られなくなると増量しますが、副作用も出やすくなります。カルバマゼピンが増量できず、痛みがコントロールできなくなると、他の3通りの治療を考えます。神経ブロック、ガンマナイフ、手術です。

神経ブロックは三叉神経に麻酔薬を注射したり熱を加えて、ガンマナイフは放射線を当てて、神経を麻痺させる治療です。手術は顔面痙攣同様、当たっている血管を移動させる根本的な治療になり、高い治療効果が得られます。神経ブロック、ガンマナイフは体の負担が小さくすむ治療ですが、しびれが残りやすく、手術リスクの高い高齢の患者さんなどに勧められます。