もやもや病

もやもや病について

もやもや病とは、脳の血管が細くなる原因不明の病気です。

下の図Aは正常の右内頚動脈という血管をみたMRA画像です。図Bはもやもや病患者さんのMRA画像です。もやもや病は、内頚動脈終末部(黄色矢印)が狭くなってしまう病気です。典型的には左右ともに狭くなるのですが、片側のみ狭くなる場合もあります。血管が細くなり脳への酸素や栄養が足りなくなるため、それを補おうと、通常は0.1~0.3mmほどの細い血管が赤矢頭のように発達して目立ってきます。

これらがタバコの煙のようにもやもやと見えるので、もやもや病と命名されました。もやもや病では、脳血管の閉塞がゆっくりと進行し、左右・前後の脳血管が狭くなっていきます。

もやもや病は、日本を含む東アジアに多く発症することがわかっており、家系内発生率も高い(約10~12%)病気です。女性に多く、発症は小児期(10歳以下)と40歳台に多くみられます。

小児例では脳虚血(脳血流が不足する)症状が大部分を占めますが、成人例では脳出血の割合が30-40%と高くなります。

もやもや病の症状

もやもや病の症状は呼吸と強く結びついて出現します。特に小児例では、「一過性脳虚血発作」と呼ばれる発作が特徴的です。

例えば、泣いたり、熱い食べ物を冷ますときに「フーフー」と息を吹きかけたり、歌を歌ったり、ハーモニカや笛を吹くなどの行為で、数分間手足の力が抜けてしまいます。手の力が抜けると物を落とし、足の力が抜けると座り込んでしまいます。数分の後に症状が元に戻ると、何もなかったかのように元気に過ごします。

病院を受診したときにはすでに症状がなくなっていることも多く、子どもさんは自分の症状を正確に伝えることが困難で、病気に気付かれないことも多くみられます。幼稚園や小学校に入学されたお子さんの場合は、先生が異変に気付かれることもあります。
もやもや病には、以下のような発症型があります。

(1)一過性脳虚血発作(TIA:Transient Ischemic Attack)型

もやもや病の代表的な症状で、子供が泣いたときや吹奏楽器を演奏したときに手足の力が抜けますが直ぐに回復するといった症状が典型的です。初期の頃は数分間で元に戻りますが、繰り返している間に後遺症を残す脳梗塞を生じます。すなわち脳梗塞の前触れの警告でもあるわけです。

もやもや病では、まず前方の脳血管(前方循環、内頚動脈系と呼ばれます)が狭窄していき、遅れて後方の脳血管(後方循環、椎骨脳底動脈系と呼ばれます)が狭窄~閉塞していきます。その変化によって、初期には力が抜けるといった発作が起きていた方が、力は抜けなくなったけれど手足がしびれてしまう、見え方がおかしいなど他の症状に変わっていくこともあります。

(2)脳梗塞型

一回も一過性脱力発作なしに最初から脳梗塞を生じるものです。最初の発作から片麻痺や言語障害などの後遺症を残します。この型では、二回目の発作も脳梗塞が多く、後遺症を残すので要注意です。

(3)出血型

初回発作から出血を起こすもので、大人の方に多い型です。

元気に暮らしていた人が突然激しい頭痛を訴え意識をなくして倒れます。多くの場合、側副血行路として発達してきた脆弱なもやもや血管が破れてしまうことが原因で、「脳室内出血」を生じます。

右図は脳室内出血のCT画像です。赤矢印で示した白い部分が出血です。狭窄を起こしていない脳血管や、もやもや血管に血管のたんこぶである「脳動脈瘤」がみつかる場合もあります。

(4)頭痛型

典型的には、早朝の起床前後に頭痛を訴え、学校を休まざるを得ないこともあります。もう一度1~2時間程度眠ると、すっきりと頭痛が良くなり、午後には学校に通える子も多く、ずる休みと勘違いされてしまうこともあります。

(5)てんかん型

ある日突然、手足をガクガクと振るわせたり、意識を失う痙攣発作で発症するものです。てんかんを起こす人の多くには、既に脳梗塞があります。また脳梗塞を起こした時にその症状として、てんかんを発症する場合もあります。

(6)無症状型

頭部の外傷の際の検査や、脳ドックなどで偶然発見され、自覚症状が無い型です。しかし、詳しく病歴を聞くと、一過性脱力発作があったが病気とも思っていなかったという患者さんも多くいらっしゃいます。

脳梗塞の部位や大きさ、数によって、手足の麻痺、言語障害などの後遺症を残します。また、診断が難しい症状として高次脳機能障害と呼ばれる、対人関係がうまくいかない・衣服を着ることが難しい・計算したり字を書くのが難しいといった障害が現れることもあります。高次脳機能障害は一見しても分かりにくい症状であるため、気付かれないままとなっていることも多くあります。また、そこで、これらが生じないように薬物治療や外科治療を行います。

もやもや病で行われる検査

MRI/MRA

もやもや病が見つかるきっかけとなる検査は、ほとんどの場合MRI/MRA検査になります。かつてもやもや病は、手足の麻痺や言語障害などの重篤な後遺症を出して初めて診断される病気でした。しかし今では、軽い一過性脱力発作や頭痛などの段階でMRI・MRA検査を受ければ、見つけることができるようになりました。

【もやもや病の脳血管(左、中)と微小出血(右)】

また、一過性脳虚血発作の症状が長く続く場合などに脳梗塞を起こしていないかどうか確認したり、もやもや血管の脳室周囲吻合や微小出血など出血リスクを予測する所見を確認するなど、多くの情報を得ることができます。

CT

単純CT(造影剤を使用しない撮影)では脳血管が見えないため、もやもや病の診断はできません。大人で発症される方は、頭痛・吐き気・意識障害・片麻痺などで発症する脳出血型のことが多いので、この検査で脳出血がないかを確認する場合に行われます。

造影剤を用いたCT検査では、脳や頭皮の血管の走行、頭蓋骨との位置関係などを三次元的に検査することができます。手術方法などを検討する際に撮影することがあります。また、脳潅流画像を得ることもできます。

脳循環代謝検査(SPECT とPET)

脳血管撮影やMRAは脳血管の形を見るものですが、SPECT (スペクト:Single Photon Emission Computed Tomography)やPET(ペット: Positron Emission computed Tomography)は、より症状と関係する脳循環代謝をみる検査です。

安静時とアセタゾラミド(ダイアモックス)という血管拡張薬を使用した時の脳血流の違いを比較することで、どの程度の脳循環予備能(脳血管が拡がって血液を呼び込む余力)があるかを調べます。この変化や脳血流から、脳梗塞のリスクを評価します。

【もやもや病のSPECT画像、安静時(左)とダイアモックス負荷時(右)。左半球(向かって右側)の血流低下(赤から黄緑色へと変化)が見られます。】

脳血管造影検査

大腿部または腕などの動脈にカテーテルと呼ばれる細い管(直径数mmほど)を挿入して、頸部の血管まで進めて行きます。そこから造影剤を注入し、脳血管を撮影することで、脳血管の形、もやもや血管など側副血行路の発達具合などを調べます。

ごく稀ではありますが脳梗塞などリスクを伴う検査であるため、他の検査結果を踏まえて、検査が必要であるかを判断します。

もやもや病の進行について

もやもや病は見つかってからも徐々に進行を続ける疾患です。
みつかる時期も、それからの進行速度も患者さんにより違います。前(内頚動脈、前・中大脳動脈)から後ろ(後大脳動脈)へと進行し、左と右でも違いがあります。狭窄の進行に伴って、脳の中を通るもやもや血管や、外頸動脈と呼ばれる頭皮や頭部の筋肉を栄養する血管から脳血流を補おうとする側副血行路の様子も刻々と変化します。長期間に渡って進行せずに順調な経過を辿っていても、ある時期から急に進行することもあります。

病期をしっかりと把握して、脳梗塞や脳出血による後遺症を残さないように担当の医師とじっくり相談の上で、治療方針を決定していく必要があります。そのため、全く症状がなくても年に1回はMRI検査をうけ続けることをお勧めします。

病症日記について

もやもや病の患者さんとご家族へは、まず「病症日記」を付けることをお勧めします。
これは、症状が様々な情報を教えてくれるのですが、人の記憶はあいまいです。いつ、どんな症状があったかを外来で正確に伝えることは容易ではありません。詳細な日記(病歴)があれば、CT、MRI、SPECT(脳循環)等の検査無しでもかなりのことを知ることができます。

毎日記録をつける必要はありません。日記をつけるべき時は、もやもや病に伴うと思われる発作が出現した時です。いつ(日時)、何をしている時に(歌を歌っていて、熱いものをフーフー覚ましていて、など)、どんな症状(手足の脱力、しびれ、頭痛など)が、左右どちらに出たか、何分間続いたか、どんな対応をとったか(寝て休んだ、痛み止めを飲んだ、病院で点滴をしてもらった、など)、を記録してください。1回の発作の記載は、1~2行ほどですが、数ヶ月に1回の定期外来を受診していただく際にまとめて見せていただくと、治療方針の参考にもなりますし、日常生活で気をつけることを指導させていただく際の参考にもなります。数ヶ月、数年にわたって記録を付けておくと、ご自分でも、「去年より発作の回数がだんだん多くなっているようだ。」「先月は発作が多くて心配になって病院を受診したりしたが、今月は症状が少ない」など、定期的な外来を受診する以外に、どういうときに受診するのがよいのかを判断する基準にもなってきます。また、発作の誘因となったことが見つかることもあり、その行為をやめさせることができます。

血流低下によって大脳半球が一時的に働かなくなって出る症状がTIAです。脳細胞が死に至る前に血流が回復するため、症状が改善します。更に血管狭窄が進み、血流不足の時間が長くなると脳神経細胞が死に、元に戻らない「脳梗塞」と呼ばれる状態になり、麻痺などの後遺症が残ることになります。一過性脱力発作は、脳梗塞に陥る危険性がありますよとの「警告」ですので、用心しなければなりません。

もやもや病の治療について

また、てんかんで発症された「てんかん型」の患者さんの場合には、てんかん発作を軽減させる治療薬の内服も基礎治療として行っております。

内科的治療(薬物治療)

一過性脳虚血発作を繰り返す患者さんには、抗血小板剤の内服をおこないます。しかしながら、症状が急速に進行する方では脳梗塞を起こし、永続的な障害を残す恐れがあり、早期に外科治療を検討する必要があります。

また、大人の方にみられる出血型では弱いもやもや血管に負担がかかると、破れてしまったり、動脈のこぶ(動脈瘤)ができたりすることがあるため、血圧が高い方は降圧薬を内服していただきます。
小児期に抗血小板剤を内服していた場合でも、症状が落ち着いた時点で抗血小板剤を中止します。特に成人の患者さんでは、できるだけ抗血小板剤は避けるようにします。

一般的な生活習慣病予防のための食生活や軽い運動はお勧めしており、血圧だけでなく高脂血症、糖尿病なども血液検査で異常が出るようであれば早めの治療を心がけて下さい。

外科的治療(脳虚血に対する血行再建術)

外科的治療は、入院が必要なこと、部分的でも剃毛が必要なこと、合併症として脳梗塞、出血等の危険を伴うことなどが欠点として挙げられます。そのため、手術の適応は十分に検討する必要があります。しかし、内科的治療に比べて劇的な症状の改善、一過性脱力発作の消失や脳梗塞の予防が期待できます。外科的治療は、大きく直接法と間接法に分けられます。直接バイパス術は、血管同士を直接吻合するため確実な効果が期待できますが、反面、血管の細い子どもさんの場合は施行困難なことがあったり、効果が広範囲に及びにくいこともあります。

また、間接バイパス術は手技は比較的やさしく安全ですが、側副血行路の形成がご本人の血管新生能力に頼っているという意味で不確実であり、十分な血管新生がおこらず手術の効果が上がらない方もおられます。間接バイパス術は様々な手法が各施設で行われていますが、広い範囲に側副血行路形成が期待できることと、どの領域でも行えるという利点があります。

もやもや病に対する治療方針は、臨床症状が軽いものに対しては内科的治療で経過観察し、進行するものは脳循環検査等を行ったうえで手術のタイミングとその範囲をしっかりと検討することが重要と考えています。

出血に対するバイパス術治療効果について

もやもや病出血例の年間発症率は0.5人/100万人、日本全体で年間60人程度の発生と考えられています。脳出血成人例に脳動脈瘤が見付かる方も稀にありますが、大半は動脈瘤が見付からず、脳室内出血で発症されます。再出血が起こる確率は、1年間に7-8%と考えられています。

虚血型に対してバイパス手術が有効なことは認められていますが、これまでは出血型に対する有効な治療法は確立されておりませんでした。もやもや病における脳出血の原因は、側副血行路の脆弱なもやもや血管が出血源で、負担が掛かりすぎて出血すると考えられています。脳室周囲吻合と呼ばれる所見は、負担がかかっていることを示しており、特に脈絡叢動脈が関与していると再出血率が1年間に13%、出血していない患者さんでも出血率が1年間に5-6%程度あると考えられています。一度出血を起こした患者さんにバイパス手術をおこなうと再出血の予防効果があることは既に証明されていますが、出血を起こしたことがない患者さんでも、脳室周囲吻合がある場合には、バイパス手術を行うことで出血を予防できると予想され、それを支持する報告が出てきています。

このような所見に注意をしながら定期的な画像検査をおこない、治療をどうするのか、主治医の先生と十分に相談する必要があります。

生活上の問題と高次脳機能障害について

もやもや病は、MRI等検査機器の発達による早期診断、前述したような内科治療、各種バイパス手術の発達などにより、一過性脳虚血発作や脳梗塞のリスクを減少させ、生命をおびやかすような病気ではなくなってきました。しかしながら、脳梗塞・脳出血発症例においては、手足の麻痺、視野視力障害、言語障害などの後遺症を抱えながら生活を送る患者さんも少なくありません。

また、身体的には問題ないものの、人間関係がうまくいかない、感情のコントロールができない、新しいことを覚えられない、計画をたてられない、集中力がない等の問題によって、学業についていけない、就職できない・長続きしない、など日常生活に支障をきたすことも多く見られます。これを高次脳機能障害と呼びます。わかりにくい症状ですので、気になることがあればご相談ください。

現時点で、高次脳機能障害に有効な治療法はありませんが、高次脳機能検査をおこなったうえで、どのように問題を改善していけるか一緒に考えていきます。